医療機関はハラスメントが起きやすい
医療機関は、長時間の過重労働、さらに決してミスが許されないという他業種にはない強いストレスがかかる環境にあり、また職種別・部門別の縦割り組織、個々人の高いプロフェッショナル意識から、コミュニケーション不足も生じがちで、ハラスメントが生じる原因が数多く潜んでいます。
厚生労働省の調査*でも、医療業界においては看護師、准看護師及び看護助手が精神障害となる事案の割合が高いことが示されています。*令和3年版過労死等防止対策白書
医師の働き方改革も推進されるなか、職場環境の悪化を招くハラスメント対策は喫緊で取り組むべき課題といえます。
ペイシェントハラスメント
パワハラ、セクハラ、妊娠・出産・育児休業等ハラスメントに加え、医療機関で起きやすいハラスメントとして、ペイシェントハラスメント*も近年注目されているところです。
*「ペイシェントハラスメント=医療現場における迷惑行為」とは?
福岡市医師会Websiteより引用
①患者等からのクレーム・言動のうち
②要求内容に妥当性があるのかを確認し
③要求実現のための手段等が社会通念に照らして不相当な範囲であって
④医療従事者の就業環境が害されるもの
厚労省/YouTube「医療現場における暴力・ハラスメント問題について、学べる動画(医療従事者向け)」より
理不尽なクレーマーが増加すれば、最前線で対応している職員の苦労と疲弊は激しくなり、やがて無力感とストレスで担当者の心が折れてしまい、職場の負の空気感が退職の連鎖を招いてしまう危険性があります。職場の雰囲気が悪くなったり、離職率が高まり現場の仕事が回らなくなったりすれば、他の患者に対するサービスの低下につながり、評判が悪くなって患者が減少するというような悪循環に陥るリスクも出てきます。
悪質なカスタマーハラスメント(医療機関におけるペイシェントハラスメント)があった場合、事業主は労働者を危険から守る義務があります。具体的には、
- 職員にひとりで対応・判断をさせないこと
- 「何かおかしい」と感じたら早めに上司や同僚にSOSを出すように日頃から周知すること
が大切です。
医療機関において取り組むこととしては、まずは院内のクレーム対応の体制を整備し、職員がクレーム対応に迷わなくてすむように教育することから始めてみましょう。
- 現場でクレームが発生した場合に最終的に誰が対応するのか責任者を決めておくこと
- 現場スタッフから責任者に引き継ぐ流れを決めておくこと
が肝要です。現場のスタッフは正規雇用労働者以外の場合もありますから、初期対応をする現場スタッフの行動を定型化し、個々人で判断をしなくても済むようにしておきます。
クレーム対応を図のように3ステップに分けると、現場スタッフには謝って済む問題だけを任せます。謝ることで解決するのが理想ですが、少なくとも不適切な対応によって二次クレームにならないように謝罪の定型問答について教育をします。また現場の初期対応ではクレームを受け止めて相手の怒りをヒートアップさせないこと、次に相槌を打ちながら真摯に聴くこと、途中で反論しないことなどが大切なため、共感・傾聴の方法について教育します。
現場スタッフが謝っても解決せず、相手から要求を出された場合は、責任者に引き継ぎます。引き継いだ責任者は、現場スタッフから事実を聴き確認した上で、クレームに対する妥協点を見つけること、不当な要求の場合は断固として「NO」と伝えることなどが求められます。ただなかには聞く耳をもたず、著しい迷惑行為を止めないクレーマーもいます。そのような場合に備え、経営者である院長は脅迫罪や恐喝罪などのクレーム対応で役立つ最低限の法律知識を身に付けておくと良いでしょう。また、防犯カメラによる記録・録画をすることも有効です。
ハラスメントへの備え
パワハラやセクハラなど、実際にハラスメントが起き業務災害として提訴された場合には、損害賠償責任が発生するリスクも出てきます。損害賠償の他にも、営業停止等の行政処分や医院としての社会的イメージの低下、労働安全衛生法違反による刑事責任まで問われる可能性もはらんでいます。そうした場合の備えとして、従業員の業務災害にかかわる各種費用の支出、損害賠償責任リスクを保険でカバーすることも一案です。
ハラスメントが起きていない今だからこそ、適切な対策がとられているか確認されることをお勧めします。