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経営戦略・事業運営

診療報酬改定におけるオンライン診療の強化について

今回の診療報酬改定のオンライン診療について強化すべきかどうか迷っています。患者の利便性を高めるというメリットはありそうですが、要件において①リアルタイムでのコミュニケーション(ビデオ通話)が可能な情報通信機器を用いてオンラインによる診察を行った場合に算定、ただし、②連続する3月は算定できない、③対象となる管理料等を初めて算定してから6月の間は毎月同一の医師により対面診療を行っている場合に限り算定する――等々の規制がかかっているようです。他院の動向やアドバイスをいただければと思います。(診療所院長45歳)

対面診療と同様に医療の質の向上と治療効果の追求が必要であり、 医療の効率化の実現は「労務軽減」につながっていくと認識すべき

これを契機に医療のICT化がさらに促進されることが期待されますが、運用に当たってはさまざまな面に留意することが必要です。

○ポイント1 対面診療と同等の質を維持する
オンライン診療を行うには、患者との間に情報通信機器が介在します。実施に当たって、昨年3月末に厚生労働省が公表したオンライン診療に関する「指針」では、オンライン診療とは「遠隔医療のうち、 医師と患者間において情報通信機器を通して 患者の診察および診断を行い、診断結果の伝達や処方等の診療行為をリアルタイムにより行う行為 」と定義されています。また当該指針では、オンライン診療の理念として、①医療の質のさらなる向上に結び付けていくこと、②医療に対するアクセシビリティ(アクセスの容易性)を確保し、よりよい医療を得られる機会を増やすこと、③治療の効果を最大化すること――を目的としていることが明確に示されていますので、対面診療と同様に医療の質の向上と治療効果の追求が必要になります。
オンライン診療は、目の前に患者さんがいないため、対面診療以上に患者とのコミニュケーションやお互いの信頼関係を事前に構築していくことが要諦です。そのために、対象患者の要件として「対面診療を6月以上実施」があると理解してください。

○ポイント2 患者のITリテラシーに着目する
オンライン診療で使用するツールはタブレット端末やスマートフォンが標準的ですから、自院だけでなく患者にもITリテラシーが必要となります。オンライン診療を実施する前に、個々の患者に対して、特に高齢者に対して操作訓練やITリテラシーを確認することが不可欠になります。また、インターネット回線を用いて行うためセキュリティ対策も必要です。前述した指針では、「患者側端末は、患者個人が契約するスマートフォン等による利用が想定されるが、その利用やセキュリティ対策の状況が多様であることから、患者側端末で対策が実施されていることを前提とせず、オンライン診療システム提供者側で万全のセキュリティ対策を講じることが必要である。~(以下、略)」と示されています。このような点を踏まえると、オンライン診療で用いるセキュリティ対策のアプリケーションは、自院で準備・提供・管理することが最低限必要であり、患者側にはその旨を事前に説明・了解を得なければなりません。

○ポイント3 包括的な取り組みに向けて
昨春の改定で新設されたのは、オンライン診療料・オンライン医学管理料・オンライン在宅管理料・精神科オンライン在宅管理料の4つです。後者2点は、①オンライン在宅管理料は在宅時医学総合管理料の加算点数、②精神科オンライン在宅管理料は、精神科在宅患者支援管理料の加算点数――として設定されています。なお、現在の診療報酬では施設入居時等医学総合管理料を算定する患者は含まれないので注意が必要です。なぜなら、オンライン在宅管理料は、在宅時医学総合管理料の「注12」で規定されていますが、施設入居時等医学総合管理料では準用されることが規定されていないからです。
このように、院内での診療・院外での診療の両面でオンライン診療が解禁されている点を考慮すると、オンライン診療は院内・院外包括的に取り組むことが求められていると考えます。取り組みに向けての流れは、①院内の機器整備・準備、②対象患者の選定。対象患者は特定疾患療養管理料・生活習慣病管理料・地域包括診療料等を算定する患者ですから、これらを算定する患者のうち、比較的若い世代の患者から希望者を募ります。①6月以上の対面診療を継続(慣らし運転・ITリテラシーの確認期間)、②オンライン診療の開始、③(その後の経過をみて)在宅患者へ拡大――していくことが望ましいです。

○ポイント4 他施設との協同
在宅患者に対してオンライン診療を実践しようとする場合、対患者だけでなく、地域の診療所や訪問看護ステーションとオンラインでの情報共有が不可欠になります。在宅患者に対してオンライン診療を実践しようとする場合、機能強化型(連携型)在宅療養支援診療所の施設基準届出は必要不可欠と考えます。IT機器を用いた診療の利点は、患者のバイタルデータ等の情報について機器を通してリアルタイムに共有・把握できる点にあります。このように利点を生かすことで、自院のかかりつけ医機能やサービス提供の質が高まることが期待できます。

○ポイント5 自院の労務軽減に向けて
これまでお伝えした4点から自院の労務軽減につなげていくとの観点が必要です。診療報酬上では特に明確な規定は設けられていませんが、運用面を考慮すると、オンライン診療は予約診療に準じて実践する(実施する時間を事前に患者と取り決める等)形となります。特に在宅患者に対して実践する場合、訪問にかかる時間や経費が効率化できるため、労務軽減が期待されます。そのため、最初の切り口は「オンライン診療はどのようなものか?」との興味が先に立つでしょうが、今後の経営に向けて、①患者や家族との信頼関係構築と維持(患者数の維持に貢献)、②患者の時間の有効活用を図りながらサービスの質を維持(そのことで自院への評価につながり、自院の付加価値が増す)、③自院の労務軽減(院長ご自身やスタッフが余裕をもって質の高いサービスが提供できる)――を果たすための手段としてオンライン診療を位置づけられることをお勧めします。

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