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経営戦略・事業運営

地域医療における有床診療所の役割とは?

地方都市で内科の有床診療所を経営しています。経営は非常に厳しく、毎年有床診療所全体の数も減少していることは周知の事実です。診療報酬では「機能に応じた評価」を行うとされていますが、入院患者の受け入れは地域の病院と連携して一般病床からの入院患者を確保することが重要です。緩和ケアやターミナルケアの機能評価、在宅患者の往診や緊急時の入院受け入れなどの評価が今後も維持されるかどうかは難しいと感じます。単に入院料が病院より安いというだけでは地域の患者の来院動機としては不十分です。内科、整形外科、泌尿器科、産婦人科など全体として有床診療所の地域医療における役割について大まかなところで構いませんのでご教示下さい。(医療法人理事長55歳)

地域包括ケアシステム構想のなかで行政の「不要」という愚策が見直され 診療報酬は継続的に引き上げられ、地域医療における複数の機能も明確に

有床診療所について語る時、必ずといっていいほど例示されるのが長期にわたる診療所数の減少傾向です。その理由も明確で、先生も指摘されているように「経営が非常に厳しい」ことにあります。その背景には、やはり昭和50年代半ばから厚生省は「有床診療所不要」の立場に立って、診療報酬改定によって有床診療所を存続困難な状況に追い込む政策を展開してきたことがあると思われます。医療現場の実態を知らない愚策ですが、有床診療所の院長先生方が経営難で苦しんできたのは当然の帰結といえます。

しかしながら、これほどの苦境に置かれながらも有床診療所は、数は半減したとはいっても1万床近くが現在も存続しています。何故でしょうか。答えは簡単です。地域医療において絶対に不可欠な存在であるからです。また、患者さんからの絶対的な支持・存続要求があるため、先生方は無床化したほうが楽になることを十分に知りながらも、医師としての使命感から懸命に有床を維持してきたと、私は感じています。先生が有床診療所の経営維持にネガティブなイメージを抱く気持ちはよくわかります。

しかし、地域包括ケアシステムが構想されるなかで流れは変わり、大きな政策転換がなされました。まず、平成22年度の診療報酬改定で有床診療所一般病床初期加算が新設され、平成24年度の診療報酬改定では入院基本料の引き上げ、医師配置加算や看護配置加算、夜間看護配置加算の新設が行われ、続く平成26年度の診療報酬改定においてもさらなる入院基本料の引き上げ、看護補助者の配置加算の新設、栄養管理加算の再評価・新設などが行われています。このなかで注目すべきは新設された「有床診療所入院基本料1~3」において「地域包括ケアシステムのなかで複数の機能を担う有床診」という位置づけがなされたことで、診療報酬全体としては実質的にマイナス改定が行われるなかでの引き上げとなりました。病院の入院基本料とはまだまだ差はありますが、日本医師会が最低でも必要とする1日1000点という水準に確実に近づいてきています。

たとえば、「地域包括ケアシステムのなかで有床診療所が担う複数の機能」としては、①病院からの早期退院患者の受け入れ機能、②在宅患者等の急変時の受け入れ機能、③複数の機能を担う有床診療所の評価――が提示されていますが、平成26年度の診療報酬改定に至る中医協の論議をみると、専門医療を担う機能については「個々の技術の評価で対応」、在宅医療の拠点機能については「在宅療養支援診療所・機能強化型在宅療養支援診療所にかかる評価で対応」、終末期医療を担う機能については「看取り加算で対応」となっています。ここからも、有床診療所に対する診療報酬上の評価はまだ十分ではないと考えられていることをうかがうことができます。

また、個別の診療科目については、日本医師会の有床診療所に関する検討委員会の「答申」によると、産科については平成23年の段階でも分娩数の半分近くを有床診療所が扱っているものの、①分娩を扱う有床診療所の減少、②夜勤・当直の助産師の確保の困難さ、③訴訟対応――が課題となっています。眼科については、かつては白内障手術の30%を担っていたものの有床診療所の減少や外来での手術率の増加によって減少しており、平均在院日数は2日程度。病床の維持が必要なのか、根本的な課題があるようです。整形外科は①手術を主体とする専門医療に特化した施設、②保存的治療や小手術、介護保険サービスを行う小規模多機能型の施設――に大別されますが、専門スタッフの確保が課題とのことです。
泌尿器科については「答申」には書かれていませんが、人工透析医療、前立腺手術、シャント手術後の患者を受け入れて継続的な管理を行う施設など院長先生の専門領域によって経営傾向は大きく分かれるものと思われます。

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