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経営戦略・事業運営

「地域包括ケア」における医療の役割とは

内科診療所の開業医です。今回の診療報酬改定では、高齢者住宅などの入居者に訪問診療を行った場合の点数が大幅に引き下げられましたが、一方で、同一建物となるサービス付き高齢者向け住宅の整備の支援を積極的にしており、何となく政策がちぐはぐではないかと思われます。私の診療所でも、すでに一部の患者は通院が困難になっていますし、今後も増加傾向にあります。かかりつけ医として、このような患者をどのように診ていくのか体制を作っていきたいと思っています。アドバイスをお願いします。(一般内科診療所院長56歳)

自ら在宅療養支援診療所になるだけではなく、周囲の医療・介護機関との連携を深めることも必要不可欠

2014年4月の診療報酬改定では、朝日新聞(2013年8月25日掲載)で取り上げられていたような高齢者住宅における在宅医療の不適切事例に厳しく対応するために、保険医療機関等が事業者等に対して金品を提供し患者を誘引することを禁止するなどの療養担当規則の一部を改正しました。診療報酬でも報酬が高く不適切事例の誘因とされる在宅時医学総合管理料(在医総管)と特定施設入居時等医学総合管理料(特医総管)に「同一建物・複数人訪問の場合」を新設し、現行の4分の1程度にしましたし、訪問診療料も、特定施設や特定施設以外の同一建物の点数を2分の1に下げました。同一建物の入居者を診療していた一部医療機関の引き上げなどの影響を考慮して緩和策が提示されましたが、訪問先として優先順位を下げる医療機関は増えております。
国として在宅患者の受入先の一部として、今回の改定で同一建物となる「サービス付き高齢者向け住宅」の整備の支援を積極的にしていることから、たしかに政策のちぐはぐ感は拭えません。診療報酬の点数を下げるのではなく、問題事例を厚生局の指導監査で正していくほうがよかったのではないかと思われます。

(1)かかりつけ患者を診るための在宅医療のあり方
2025年に向けて75歳以上の人口はマクロで増加していくことは繰り返し国やマスコミが取り上げていますが、実際に内科等の各医療機関が現在外来で診ている患者も高齢化が進み、確実に一部の患者は通院が困難になっていきます。先生がお考えになっているのと同じように、多くのかかりつけ医としては、通院困難な患者をどのように診ていくかを考えておく必要があるでしょう。
選択肢として、まずは自らが在宅医療に取り組むことがあげられます。かかりつけ医としての診療を長年行い、地域の信頼を得ている医療機関は、在宅療養支援診療所の緊急往診件数や看取り件数を満たすことは可能でしょう。ただ、高齢者の外来患者についても今後増加することが予想されることから、在宅医療に時間を割くことはなかなか難しいかもしれません。自らが在宅に出向く時間を作るためには、自院で医師を雇用したり、応援医師を頼んだりすることで対応する方法が考えられます。
次に、在宅療養支援診療所等と連携して対応する方法が考えられます。自らは外来診療に専念し、通院困難になったかかりつけ患者を在宅医療を重点的に行っている医師と連携して診る方法です。自分のかかりつけ患者を任せられる信頼できる在宅医を地区医師会内で探すことができるかどうかが鍵になってきます。

(2)在宅医療に取り組むに当たっての課題
かかりつけ患者を在宅で診るためには、訪問看護ステーションや介護事業者などの他職種、多職種との連携は必要不可欠です。具体的に検討すべきは、以下のような内容です(資料出所:2013年11月23日「在宅医療推進フォーラム」高杉敬久日本医師会常任理事発表資料)。
・患者の背景の把握、どうして罹患したかを考える
・地域にあるサービスとサービスをつなげる役割を果たす
・多職種から学び、話し合い、合意形成する
・勉強会や研修会を通じて顔見知りの関係を作る
・地域全体で街作りを行う
特に、中小病院との連携においては、自分の患者の入院先になる施設でもあるわけですから、基本的に医療機能のレベルの高い病院をファーストチョイスとしてほしいものです。たとえば、地域包括ケア病棟との連携を検討するのであれば、療養病床ベースの病院よりも、一般病棟7対1病床から転換した病院のほうが一般的に医療機能は高いはずです。また、後者のほうが地域連携室を設置しているなど診療所との連携システムも確立していて、関係が築きやすく、情報の共有などにおいてもスムーズな連携ができるものと思われます。
院内外の医療・介護スタッフ間でのタイムリーな情報共有や患者とのコミュニケーションをする際に、ICT(Information and Communication Technology)を有効活用することで、記録作成やスケジュール調整などが効率化でき、本来の患者のケアに時間を回すこと可能になります。在宅医療の電子カルテを含めた多職種連携用のソフトウェアの開発はまだ過渡期の状態であるので、技術の開発動向や普及状況について関心を払っておくほうがよいでしょう。

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