経営戦略・事業運営
地域包括ケアシステムの課題
理想論的「地域包括ケアシステム」の危険性、本当に医療・介護提供体制は実現できるのか
地域包括ケアシステムが必要とされる背景 今後の在宅医療のあり方
Ⅰ.地域包括ケアシステムができた背景
(1)未曽有の高齢化の進展
日本の高齢化は、諸外国に例をみないスピードで進行していますが、厚生労働省(以下「厚労省」)は、2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活を支援する目的で、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。
(2)地域包括ケアシステムができた経緯
2000年に介護保険が創設され、その5年後の2005年の介護保険改革の際に厚労省老健局長の私的研究会である高齢者介護研究会が「2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~」の報告書のなかで、地域包括ケアの考え方を提唱しました。介護保険創設から5年が経過し、在宅サービス事業者が充実してきたこと、施設サービスの充実は介護保険財政の観点から困難なことから、施設介護から在宅介護に移行させるために、地域で面的に在宅を支えられる仕組みを作る必要がありました。その仕組みとして、地域密着型サービス、小規模多機能型サービス、介護保険利用者を継続的にケアマネジメントしフォローするための拠点として地域包括支援センターが作られました。
なお、2015年は団塊の世代が65歳になる年であり、介護保険の第1号被保険者になる節目の年になります。
Ⅱ.地域包括ケアシステムとは?
(1)地域包括ケアの意味
介護保険制度の創設により、ケアマネジメント、具体的には個々の要介護者の心身の状況等に合致したケアを総合的かつ効率的に提供する仕組みが導入されました。しかし、介護保険の介護サービスやケアマネジメントのみでは、在宅における高齢者の生活すべてを支えきれるものではありません。支えるためには、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが切れ目なく、包括的に提供される必要があります。
また、高齢者が住み慣れた地域で暮らすためには、広域でサービス提供体制を整備するのではなく、個々人の普段の生活圏域単位でサービスを受けられる体制が整備される必要があります。
介護保険事業計画の最小単位は市町村ですが、地域包括ケアの体制整備の単位として中学校区が例示されています。中学校区は全国で約1万ヵ所あり、人口が1万の規模なのでわかりやすいことから、生活圏域として中学校区を目安にされたのだと考えられます。
在宅医療の必要な患者、要介護者に加えて、今後は認知症高齢者のさらなる増加が見込まれることから、認知症高齢者の地域での生活を支えるためにも地域包括ケアシステムの構築が重要になってきます。
(2)「地域」および「包括」の難しさ
一言で「地域」といっても、人口が横ばいで七五歳以上人口が急増する大都市部と、75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部とでは高齢化の進展状況には大きな地域差があります。生活圏の単位としての中学校区で考えると、人口密度の高い地域ならば半径数100mのエリアですが、低い地域では半径10kmのエリアまであり、アクセス面でも大きな地域差があります。
また、「包括」といっても、そもそも国から都道府県に至るまで行政組織が縦割りで政策や補助金が出されていたり、医療・看護は患者の失われた機能の再生を目的にしている一方で、介護・生活支援は残された生活能力の再生を目的にするなどおのおのの目的が異なっていたり、バラバラのものを包括する難しさがあります。また、医療・介護が担う役割の分担範囲も、地域に存在する資源の状況によっておのずと異なってきます。
そのため、地域包括ケアシステムは全国統一の一つの型があるわけではなく、保険者である市町村が地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要になってきます。そのため、今後市町村ごとの財政状況や行政能力の違いで、地域包括ケアの地域間格差が生じてくることが予想されます。
(3)地域包括ケアシステムを推進する仕組み
①仕組みの全体像
地域包括ケアシステムを推進するために、厚労省は全国の自治体に対して運営方法を示しています。
②地域ケア会議
地域包括ケアシステムを発展、定着させるために、地域の多職種および関係団体、関係者をつなぐ場であるケア会議は重要な位置づけにあります。会議は、高齢者個人に対する支援の充実(ミクロ)と、それを支える社会基盤の整備(マクロ)とを同時に進めていくという目的をもっています。
③現行の課題
ただ、現状の代表者による会議や実務者による事例検討会は必ずしも十分に機能していないところが多いようです。これらの会議の重要性については、地域包括支援センターの職員であれば誰もが理解しているにもかかわらず、十分に機能していない理由は、形式はわかっていても、それを具体的にどのような方法で行えば機能させられるかがわからないからです。
たとえば、前者の代表者による会議については、生活圏域のニーズを明らかにし、地域の団体・機関間で実施していく地域支援計画を作成・実施することで、解決を図っていくことが目的ですが、現場のことをよく知らない、いわゆる偉い代表者が来ても話が噛み合わないことがあるでしょう。
後者の事例検討会においては、地域ケア会議の理解普及が不十分であるため、プラン提出に抵抗を感じる介護支援専門員がいたり、医師との連携が未だ一部にとどまっていて医師会の理解が弱かったりというようなケースがあるなど、まだまだ発展途上といえます。