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経営戦略・事業運営

診療報酬改定が示す経営のカギ(下)

2014年4月に、いよいよ診療報酬の改定と消費税の引き上げが行われました。診療報酬の改定は実質マイナス改定となり、しかも7対1入院基本料のふるい落としのため、その受け皿としての地域包括ケア病棟等の新設など、当院(200床未満)も大きな方向転換を要求されているようです。厚労省行政の方向性との整合性と地域ニーズに合った経営方針が経営安定のカギになるのでしょうが、今改定に係る全体的な重点課題について具体的に説明願います。(病院院長)【前号の続き】

「地域包括ケアシステム」の実現に向けて質の高い在宅医療推進のためにきめ細かに報酬を設定

今回の改定で、在宅を含めた地域包括ケアシステムで高齢者を支える方向性が示されたことで、将来的に日本人の終末期医療の考え方にまで影響を及ぼすことも考えられます。
今月号では前回に引き続き、今改定内容の特徴と押さえておきたい在宅医療のポイントについてご説明いたします。

③キーワードは「役割分担と連携」-質の高い在宅医療の推進
前号でご説明したように、在宅医療はトータル的な在宅機能の充実を図る改定内容となっています。
在宅医療の主軸となる「機能強化型在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院」に関して、緊急往診や看取りなどの実績要件を引き上げ、より質の高い在宅機能の強化が図られており、また、機能強化型の要件である3人以上の常勤医師の配置を確保していなくても、十分な緊急往診および看取りの実績を有する在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院に対する評価として「在宅療養実績加算」が新設されるとともに、同一建物以外に対する在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院以外の点数は引き上げられ、量的拡充が促進されています。
さらに、緊急時における後方支援を行う「在宅療養後方支援病院」を新設するとともに、訪問看護の機能を強化するため、常勤看護職員や実績数、24時間対応、ターミナルケア、重症度の高い患者の受け入れ、居宅介護支援事業所の併設などを要件とする「機能強化型訪問看護ステーション」が新設されました。
その他、特徴的なことは、ハード面(機能)だけではなく、ソフト面(サービス)の強化も行われている点です。
在宅褥瘡対策チームによるカンファレンスと定期的なケアを実施した場合の評価として、「在宅患者訪問褥瘡管理指導料」が新設されました。
リハビリテーションでは医療保険と介護保険の整合性を図るため、運動器・脳血管リハビリテーションを受けている要介護被保険者に対して、居宅介護支援事業所のケアマネジャー等との連携により、介護保険に移行した場合の評価として「介護保険リハビリテーション移行支援料」が新設され、維持期における連携の評価も行われています。
今回の診療報酬改定のキーワードは「医療機関の機能分化・強化と連携」と「在宅医療の充実」です。
外来では、大病院(許可病床500床以上)による一般外来を縮小させ、専門外来への特化を一層進める一方、中小病院(200床未満)や診療所による「主治医機能」を強化します。
在宅医療では、サービスの担い手となる医療機関を確保するとともに、緊急往診や在宅看取りの実績を重視し、サービスの質向上につなげるとしています。
入院医療の見直しは、7対1入院基本料の削減が最大の焦点で、これに合わせて高度急性期・急性期の対象患者を絞り込んだり、回復期をカバーする病院などとの連携に道筋をつけたりします。急性期から慢性期に至るステージごとの診療報酬に、在宅復帰率の要件を盛り込んだ点も特徴です。
さらに、現在は急性期病院のみに限られているデータ提出加算の届け出が全医療機関に認められるようになります。急性期病院に限らず多様な医療機関の機能を適切に分析できるようにするためで、厚労省では「(診療報酬の)額は小さいが、将来に向けて方向性を示した」としています。
社会保障・税一体改革のなかで掲げる平成37年(2025年)の医療のイメージでは、「高度急性期」約18万床、「一般急性期」約35万床、「亜急性期等」約26万床、「長期療養」約28万床とされており、引き続き診療報酬改定のたびに少しずつこの形に近づけるとしています。
在宅医療についても、入院から在宅へシフトするために、受け皿の充実としてこれまで高い点数がつけられてきましたが、今回の改定では実績に応じて評価するといった見直しがなされました。
また、平成25年に朝日新聞が大々的に報道した在宅医療の不適切事例への対処として、同一建物の場合の「在宅時医学総合管理料」や「特定施設入居時等医学総合管理料」の点数は約4分の1と大幅に削減されました。現場からは、サービス付き高齢者住宅の整備や在宅医療推進の施策に逆行するとの意見が多く出ています。
在宅医療を主体にしている診療所への影響は非常に大きいため、まず今後の施設向け在宅医療についての方針を決める必要があります。
しかし、今改定で、介護施設や集合住宅の同じ建物に入居する患者を1日に複数訪問する場合、医療機関への診療報酬が大幅に引き下げられたため、在宅医療に深刻なダメージが及びかねないと懸念する声が広がっています。入居者を囲い込むような不適切な事例を閉め出すねらいのようで、「在宅時医学総合管理料」など、在宅医療に関連する診療報酬の大幅な引き下げが盛り込まれています。
「在宅時医学総合管理料」は、通院が困難な在宅患者への定期的な訪問に対する診療報酬で、現在は8通りの点数があり、患者1人当たり1ヵ月に最大5300点を算定できます。これに対して見直し後は、一戸建て住宅を訪問する場合は現在の報酬を維持する一方、介護施設や集合住宅などの同じ建物に住む患者を1日に複数訪問するなら、8つの区分ごとの点数をそれぞれ4分の1程度に下げることになりました。
新点数は平成26年4月から適用され、もしもここに合わせてスタッフを増員したら、医療機関は人件費増と減収のダメージをもろに受けることになります。
今改定では、特養の入居者などへの訪問を想定した「特定施設入居時等医学総合管理料」も、在宅時医学総合管理料と同じ形になります。
このほか、定期的な訪問診療を評価する「在宅患者訪問診療料」は、「同一日・同一建物」の複数訪問の場合、現在の半分に減らし、医師が診療を開始・終了した時間や、診療場所などの記録が新たに求められます。
中医協の改定案では、一戸建て住宅への訪問にどれだけウェイトを置くかが明暗を分ける内容となっています。

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