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経営戦略・事業運営

診療報酬改定が示す経営のカギ(上)

2014年4月に、いよいよ診療報酬の改定と消費税の引き上げが行われました。診療報酬の改定は実質マイナス改定となり、しかも7対1入院基本料のふるい落としのため、その受け皿としての地域包括ケア病棟等の新設など、当院(200床未満)も大きな方向転換を要求されているようです。厚労省行政の方向性との整合性と地域ニーズに合った経営方針が経営安定のカギになるのでしょうが、今改定に係る全体的な重点課題について具体的に説明願います。(病院院長)

文字通り「医療提供体制の体系的な整備」や「地域包括ケアシステムの構築」の大方針を示した改定

本件記事が掲載される頃には、すでに点数の算定要件や施設基準等が公表されて具体的な内容が明らかになっていますので、今回のご質問に関しては2014年度診療報酬改定に係る重点課題や答申等の厚生労働省の資料をもとに、改定の全体的なポイントと個別改定項目のポイントについて整理させていただきました。官報告示前の情報をもとに今改定のポイントを確認する目的で作成しましたが、ご参考にしていただければ幸いです。
1.2014年の診療報酬改定の位置づけ
厚生労働省は、いわゆる団塊の世代の方々が後期高齢者に入る年である2025年までに医療・介護の提供のための準備を整えられるように、スケジュールを逆算して施策を講じています。その一つの大きな区切りが2018年になります。
2018年は診療報酬と介護報酬の改定が同時に行われる年、つまり医療と介護の連携、地域包括ケアの推進などの取り組みの課題を整理し、新たな方向性を示す年です。また、医療法改正後に行われる病床機能報告制度や地域医療ビジョンが反映された医療計画が開始される年でもあり、さらに急性期病院のDPCの調整係数がなくなるなど、病院にとって非常に重要な区切りの年です。
DPCの調整係数については、2012年度改定で25%が機能評価係数Ⅱに置き換えられたのに続き、2014年度改定でもさらに25%を機能評価係数Ⅱに置き換え、残りが暫定調整係数として設定されます。これを裏づけるように、各医療機関では機能評価係数Ⅱが大きくアップしています。
今回の診療報酬改定については、2018年に向けて準備するために、次回の医療法改正を意識した内容になっています。特に病床、病棟の機能の見直しについては留意する必要があり、目先のことを考えて対応するよりは、中長期的な視点で対応する必要があります。また、今回の改定では、4月からの消費税率の5%から8%アップへの対応も実施されています。全体改定率はプラス0.1%とプラスですが、消費税率引き上げに伴う医療機関等の課税仕入れにかかるコスト増への対応分であるプラス1.36%を除けばマイナス1.26%になります。民主党政権から自民党中心の政権に交代し、財政再建を進めながら並行して経済成長を促進しなければならない状況下で、保険診療部分については消費税と同様に国民負担増につながることから、厳しい対応になっています。
2.改定内容の特徴
改定の基本方針の柱については、これまでの改定と大きな違いはありません。ただ重点課題については、医療崩壊といわれていた時期の対処療法的な課題設定から、2025年に向けての医療提供体制の体系的な整備、地域包括ケアシステムの構築に重点が移されています。
(1)入院から在宅へのシフトの強化
これまでの改定では延べ入院患者数を抑制するために、各病院の平均在院日数の短縮を主な目標にしていました。たとえば、前回の改定では、一般病棟入院基本料7対1の施設基準の平均在院日数は「19日以内」から「18日以内」に、特定機能病院入院基本料7対1については「28日以内」から「26日以内」に、専門病院入院基本料7対1については「30日以内」から「28日以内」に改定されました。ただ、今回の改定に至る中医協での検討経緯で明らかになったように、急性期といいつつも特定除外の患者のように、急性期医療を必要としていない長期の入院患者が7対1や10対1の病棟にいること、また、患者のなかで血圧測定や時間尿測定、喀痰吸引などの看護は必要な場合もあるが、急性期病棟として相応しい患者かどうかは疑わしい患者が入院していること、平均在院日数の計算は全体で計算するために、眼科や消化器系の短期の手術・検査を目的とした入院患者などの入退院患者が多くいれば、入院期間が長い患者がある程度いても基準をクリアできてしまうということなどの問題はありました。
①在宅復帰率の重視
今回の改定では、最終的に入院から在宅への移行が促進されるように、入院基本料の基準に在宅復帰率の考え方を積極的に取り入れています。在宅復帰率は、これまでも亜急性期病床、回復期リハビリテーション病棟については、それぞれ60%、70%という基準がありました。
今回の改定では、7対1の基準として在宅復帰率を加えることで、以前までは病棟全体の平均在院日数を気にかけながら、自院・他院にかかわらず亜急性期病床や療養の病棟に転棟、退院という形で対応していたところを、今後は在宅復帰率の基準である75%を意識して転院・退院先を考えておかないと、7対1の基準を守ることが難しくなります。
また療養病棟についても、これまでは患者を退院させることに対するインセンティブはなかったのですが、今回、在宅復帰機能強化加算を新設することで、在宅復帰に向けての取り組みを促すように働きかけています。在宅復帰機能強化加算を届け出している病棟は、7対1の病院にとって在宅復帰率に算定できる退院先になっています。そのため、在宅復帰機能強化加算を届け出していない療養病棟は、7対1病棟を有する病院からの入院患者の紹介が4月以降少なくなる可能性があります。
亜急性期病床は9月30日に廃止されることになります。その代わりとして地域包括ケア病棟が新設されましたが、在宅復帰率の要件は以前の60%以上であったところが、基準の厳しい地域包括ケア病棟Ⅰについては70%以上になっています。
〈以下次号〉

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