医事・会計
厳しくなったレセプト点検への対応について【後編】
納得できない時は積極的に照会・再審査請求を、〈都道府県数×2〉の審査ルールによる格差是正も
■突合点検・縦覧点検などの審査強化への対応
(5)納得できない減点査定に対する積極的な照会または再審査請求
支払基金等から減点通知を受けた場合は、原則一回限り再審査請求が認められています。コンピュータは標準的な審査をする一方で患者の病状は千差万別であるため、コンピュータの審査結果が必ずしも合わない場合があるのは当然です。とりあえず電話で減点査定の医学的根拠を確認し、納得がいかない場合は再審査請求を行う姿勢が大切になります。
再審査請求をしている医療機関は少ないようです。再審査請求をすると審査機関に「目をつけられる」と思っている医療機関もあるかもしれませんが、それは思い違いです。積極的に根拠をつけたうえで再審査請求をしてくる医療機関には、審査委員も一目置くという話もあるくらいです。
とはいえ、実態としては事務の問題である単純なミスの場合は、再審査請求をしていても医師を巻き込んでの再審査請求を徹底できていないことが多いようです。再審査請求をしなければ、診療行為のどこに不適合があったのかなど原因が判明しません。結果的に収入獲得の機会を中長期に逸してしまっている可能性がありますので、再審査請求の作業は大変でも優先的に実施すべきです。
■診療報酬請求に係る中長期的にとるべき対応
(1)同一患者の複数医療機関にわたる縦覧点検への拡がりの可能性
国の政策として病診連携、病病連携による複数医療機関による機能分担が進められていますが、医療費の適正化のために複数医療機関における重複検査や重複投薬などまで審査が拡がる可能性は否定できません。保険者においては、以前から患者単位に複数医療機関にわたって一定期間の縦覧点検を行っていることから、将来的に健保組合等の保険者が支払基金に点検を要請してくる可能性は当然あります。
地域連携パスが普及している地域においては、連携パスの内容に則った診療という流れに徐々に収斂をしていくかもしれません。審査する側は連携パスの内容をおそらく意識するでしょうから、地域連携を積極的に行っている医療機関は地域で使用されている連携パスの内容を、より詳細に理解しておくことは重要になってきます。
(2)審査格差の是正による影響
現状においては、審査基準について都道府県の支払基金支部間および国保連合会間の差異があり、47都道府県×社保・国保の2つの審査機関で、94の審査ルールが存在する状態といわれております。
差異の存在は、医療機関および保険者、患者にとって金銭面での影響があり、また厚生労働省が策定している医療費適正化計画にも影響してきます。長年の問題であり、電子レセプトが大部分になったことを契機に、審査の質の向上、審査における判断基準の統一化に向けて施策が検討されています。
判断基準の統一に向けては、各専門医の学会が作成している診療のガイドラインと保険診療ルール間の不整合の解消に向け、診療ガイドラインの考え方が積極的に取り入れられる可能性があります。インターネットの普及により、患者さんのITリテラシーや医療リテラシーは徐々に向上してきており、医療情報の非対称性は低くなってきていることから、各医師は診療ガイドラインについて理解しておく必要はでてくるでしょう。
診療ガイドラインについては、公益財団法人日本医療機能評価機構が運営している医療情報サービスMinds(マインズ)が参考になります。
(3)将来の診療報酬改定の方向性への対応
診療報酬の評価の大部分は、看護配置、医師配置や建物・設備の基準などをベースとした施設基準に基づく診療体制(ストラクチャー)に対するものでした。しかし、「医療の質」が取りざたされる昨今、医療機能の明確化とともに、診療や治療の経過(プロセス)や成果・実績(アウトカム)を評価する手法が検討され、順次採用されています。
欧米の先進各国では、診療報酬の支払い方式としてのP4P(Pay for Performance、略語の4はforの語呂合わせ)がここ数年注目されています。P4Pは一言でいうと、医療ケアの質の高いところに高い診療報酬をつける支払い方式です。医療の質を臨床指標等で測定し、その成績に応じて診療報酬の上乗せを行います。日本においても2008年の診療報酬改定で、回復期リハ病棟の要件に質の評価に関する要素が導入されました。
介護の分野でも2009年に在宅復帰支援機能加算と事業所評価加算の二つが入りました。
将来にわたって社会保障費の抑制は政治的に重要な課題であるため、P4Pの考え方はこれからの日本の医療保険や介護保険の報酬のあり方を変えるかもしれません。
医療機関においては、国の検討状況をみながらで充分ですが、将来的に医療の質を計るために自院に適した臨床指標等を設定し、統計をとり、分析・評価をすることも必要になってくるでしょう。その場合、臨床指標の設定から測定まで、組織横断的な取り組みが不可欠になります。(了)