コラム

患者視点のオンライン医療サービス普及までの遠い道のり

2021.7.20|医療政策

新型コロナウイルス感染症の緊急事態に対応した時限的な規制緩和で利用推進が図られたオンライン診療ですが、電話も含めた登録医療機関は全体の15%程度で横ばい状態です。初診から実施している医療機関はさらに少なく、全体の6%程度にすぎません。

政府は初診からのオンライン診療の恒久化に拘っていますが、医療機関にはシステム投資の費用がかかり、対面診療を削っての診療時間の確保に負担がかかる上に、診療報酬が低い(初診料:対面288点⇔オンライン214点)ために、普及が進まないことは容易に想像がつきます。

またかかりつけ医のITリテラシーが、必ずしも高くないことも障害になっているかもしれません。電子カルテの普及率は、かかりつけ医となる診療所(無床)で9.0%、20床~99床で18.3%、100~199床の病院で33.1%です(2019年7月時点、矢野経済研究所調査)。診療のデジタル化は遅れています。

医療サービスを提供する側の事情でオンライン診療の拡がりは遅々としていますが、利用者によっては大きなメリットを感じています。

自らの仕事や要介護者等の家族の世話などで忙しく時間のやりくりが難しい人、地理的要因や交通事情の問題がある人、その他にも難病・小児慢性疾患等の受診できる医療機関が限られている人、出産前後等で一時的に通院が困難な状態の人などです。

通院時間や通院手段が受診の障害になっている場合に、オンライン診療を受けることでアドヒアランスの向上を含め定期的に受診することができるようになるため、重症化を抑制できます。今後更に高齢化が進み、独居の方も増え、自力で外来受診できなくなる患者は増加します。一方で在宅医療を提供する医師の高齢化も進んでいることから、移動時間や移動方法も含めた効率的な医療提供体制を整える必要があるでしょう。

今後とも増大する生活習慣病、慢性疾患の患者については、日常生活における行動変容を促すためにはコミュニケーションの接点・頻度・密度を増やしていくことが効果的です。月に1度の対面診療で、日々の生活の問診をし、採血などの検査をして薬の処方や指導をしているような現状よりも、オンライン診療等の方法で頻繁にコミュニケーションを図る方が、費用対効果は上がるでしょう。

厚生労働省の会議では「対面診療」or「オンライン診療」という議論がなされているように感じますが、個々の患者の生活様式や生活環境、り患している疾病、ITリテラシー等の違いに対応した医療サービス、患者ごとに対面診療とオンライン診療の最適な組合せを考えた診療プログラムをかかりつけ医が提供できるとしたら、その労力に対して患者は対価の支払いを惜しまないのではないでしょうか。

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