競争から協調・共創のための「地域医療連携推進法人」の活用
2021.11.20|医療政策
患者減少やコロナ禍による財政悪化の更なる進展によって、多くの医療機関は患者数や診療単価の維持による収入確保がますます厳しくなることが予想されます。対策としては費用の削減が考えられますが、小規模な医療機関では価格交渉力は弱いため限界があります。
交渉相手のひとつである医薬品卸は、日本医薬品卸売業連合会調査によれば1978年に615社ありましたが、2002年には175社、2021年には70社と大幅に減少しています。以前は製薬メーカー系列別、地域別に医薬品卸会社は存在していましたが、同業他社との価格競争で勝ち抜くため、製薬メーカーや医療機関との価格交渉力をつけるため、まさに生き残りのために統合が大幅に進みました。
一方で病院については、厚生労働省の医療施設調査によれば、1975年に8,294、その後増加し1990年に10,096、1985年に導入された医療計画による病床規制によってその後は減少しましたが、2018年で8,372です。複数の病院を運営する医療法人もあるため単純な比較はできませんが、合併によって価格交渉力を含む企業力を強化した医薬品卸に対する医療機関の価格交渉力の弱さは、火を見るより明らかです。また規模の小さい診療所に至っては推して知るべしでしょう。
交渉力を確保するためにはスケールメリットが必要になりますが、その手段として2017年に開始された地域医療連携推進法人の制度があります。地域医療の衰退や共倒れを防ぐために、各医療機関等が競争ではなく協調を選ぶことで地域医療の機能分担及び連携、地域包括ケアの構築をする、地域の医療介護の機能を共創していくための枠組みです。2021年7月1日現在、28法人が全国で設立されています。

出典:厚生労働省「地域医療連携推進法人制度の概要」の資料を筆者が一部改変
地域医療連携推進法人に参画できるのは、図表のように非営利とされている病院や診療所、介護老人保健施設などを開設する法人、医療者養成機関、地方独立行政法人や自治体などです。参加法人はもれなく社員となり、法人以外の個人開業医なども社員として参画できます。原則として社員1名につき1票の議決権が与えられ、法人に関する事項の決議は社員総会で行われます。法人内には業務を執行する理事会ならびに理事会や社員総会で意見を述べることのできる評議会を設ける必要があります。
地域医療連携推進法人の最大のメリットは、合併や買収ではなく、参加法人が各々独立性を保ちながら、医薬品の共同購入や参加法人間の病床融通、人的交流、医療従事者の共同研修などグループ化のメリットを享受できる点です。例えば、2020年4月に認定された滋賀県の「湖南メディカル・コンソーシアム」は、2021年1月時点で26法人と個人開業医7人が参画し、運営施設は99施設まで拡大しています。法人のウェブサイトによれば、「規模の交渉力を発揮し、資材を安価に入手すること」、「各法人や施設で重複している事務機能を統合し、効率化を図ること」、「医療・介護の周辺産業の一部を内製化し、コストを削減すること」に取り組んでいます。
価格交渉によるコスト削減や事務の効率化、人材採用・育成などは医療機関共通の悩みですが、医師としてはどちらかと言えば苦手な分野であるため後回しにしていることが多いのではないでしょうか。臨床以外の周辺業務を法人が請け負ってくれれば、院長としては非常に助かります。
医療業界は受療率の高い高齢者が増加していたために、他業界に比べて市場の縮小は遅れています。一方で医薬品卸以外にも、薬局業界をみると家族経営のパパママ薬局の調剤薬局やドラッグストアの大手チェーンによる買収が進み、経営の効率化が進められています。一部の大都市圏を除けば確実に訪れる患者減少社会に向けて、医療機関は収入増加に頼らない方策も検討しておく必要があるのではないでしょうか。
ただし地域医療連携推進法人を一からつくるのには、相当な時間と労力がかかります。最初の一歩として、地域の医療機関や介護事業者等との身近な集まり、勉強会等において、地域医療連携推進法人をテーマとして取り上げ、地域に医療・介護の機能を残すための協調・共創について議論してみてはいかがでしょうか。