変化への抵抗を乗り越えるリーダーシップ
2024.3.20|医療経営
自院の経営に多大な影響を及ぼすような事態は、昨今の地震等の天災に限らず、突然に発生します。例えば近隣に診療機能が重複する医療機関ができたり、頼りにしていた職員が突然退職したりするような場合です。コロナ禍のオンライン診療の大幅な規制緩和なども、大きな変化でしょう。
リーダーが変化に適応するための対処策を考え実行しようとしても、組織が大きくなると職員全体に浸透させるのは簡単ではありません。人は何かを変えようとする時、メリットよりもリスクを想定してしまいがちです。結局「現状維持」を選択することが多いとされ、これを「現状維持バイアス」といいます。組織の変革を成功させるためには、平時とは異なるリーダーシップが必要とされます。
個人が組織変革に抵抗する要因には、アメリカの組織行動学の権威であるスティーブン・ロビンスによれば、以下の5つがあります。
●習慣: 従来の慣れ親しんだ方法から抜け出せない。
電子カルテなどのシステム導入が進まないのは、費用の問題もありますが、操作方法を覚えたり、紙カルテからの運用を変更したりするのが面倒だと感じる医師や看護師が抵抗していると考えられます。
●安全: 自分の職務が危険にさらされることへの不安。
手術の技術レベルの高い医師ほど、ロボット手術の普及は喜ばしいことではないと考えているかもしれません。
●経済的要因: 収入が減るかもしれないことへの不安。
急性期の病院が、回復期や慢性期の機能に転換する場合、職員は人員削減や収入を失う可能性があるため抵抗するかもしれません。
●未知に対する不安: 上手くいくかわからないことへの不安。
オンライン資格確認などの新しいシステムが入ると、トラブルが発生し、患者からどんな苦情を言われるかわからないため、これまで通りの紙の保険証のほうが良いと考えて抵抗する職員はいるかもしれません。
●選択的情報処理: 自分に都合の悪い情報は無視し、耳に心地よいことだけを聞く。
薬剤師が医師に対して、処方された医薬品のリスクや副作用について懸念を伝えたとしても、医師は自分の意見が正しいという自信から、薬剤師の意見を無視してしまうかもしれません。
このような抵抗に対処しつつ変革を成功させる方法として、図のような「変革の8段階のプロセス」があります。時系列順に説明します。
1.危機意識を高める
職員は自院の経営状況についてほとんど知りません。抵抗することで既得権益を守れたとしても、自院の経営が傾いてしまえば元も子もありません。
自院の危機的な状況を具体的に説明することで、「危機意識」を生み出すことができます。ただ注意すべきこととして、「このままでは駄目だ」だけでなく、「こうすれば上手くいく」という未来(3のビジョンと戦略)もあわせて伝える必要があります。
2.変革推進のための連帯チームを築く
院長自身が1人で対策を練るよりも、職員の意見を取り入れましょう。変革の実行段階のことを考えると、最初から各部門のキーマンをチームに入れておくことが望ましいでしょう。
3.ビジョンと戦略を生み出す
4.変革のためのビジョンを周知徹底する
職員にビジョンを伝え認識させるためには、メッセージとしてシンプルでわかりやすいものである必要があります。
5.職員の自発を促す
医療機関は職種ごとに縦割になりやすいため、自然と問題解決の障壁になってしまう可能性があります。リーダーは職種間の壁を取り払うこと、職種横断的なコミュニケーションの場を作ることなどの配慮をする必要があります。
6.短期的成果を実現する
成果が伴わない変革は抵抗勢力を勢いづかせることにもつながるため、計画的に短期的な成果のあがる「仕込み」をしておくことが大切です。
7.成果を生かして、さらなる変革を推進する
短期間で成果を出したことで得られた信頼感を追い風とし、より大きな問題に立ち向かいます。
8.新しい方法を組織文化に定着させる
組織変革が成功した後、全体に組織変革を定着させる必要があります。業界は異なりますが、例えばトヨタ自動車は、トヨタフィロソフィーやトヨタウェイを定めることで、トヨタのモノづくりの精神を文化の異なる全世界に定着させています。
組織の変革は一朝一夕に実現するものではなく、粘り強い取組が必要になります。医療機関の場合、診療報酬改定や介護報酬改定など、事の大小は別として変化への対応は定期的に必要になります。「変革のための8段階のプロセス」の考え方を取り入れ、繰り返し実践しておけば、大きな変革が生じた際にも対応がスピーディにできるのではないでしょうか。
