コラム

診療報酬では期待できない医師の賃上げ

2024.3.20|医療経営

6月からの診療報酬改定は、本体については「0.88%の引き上げ」(国費負担が約800億円増加する)が行われ、その内訳は次のようになりました。

(a)いわゆる「実質的な本体改定」部分:+0.46%
(b)看護職員、病院薬剤師、その他の医療関係職種の処遇改善(賃上げ)部分:+0.61%
(c)入院時の食費引き上げ部分:+0.06%
(d)適正化部分:▲0.25%

(a)の「実質的な本体改定」部分(+0.46%)の中には、「40歳未満の勤務医・勤務歯科医、薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所に勤務する歯科技工士等の賃上げに資する措置分」(+0.28%程度)が含まれています。

厚生労働省保険局総務課の課長は、「賃上げ対象に院長等は含まれない。40歳未満の線引きは『公的保険財源を活用した賃上げ』に相応しいラインを考慮した」と説明しています。

診療報酬の引き上げは、患者負担(窓口負担)増・保険料負担増を招きますので、医師よりも所得の低い人の負担を増やしてまで「一般的に高所得者である医師」の賃上げを行うためには、相応の理由が必要となるとの考えのようです。

(b)は事務職や看護補助者、コメディカルはもちろんのこと、看護師や病院薬剤師についても「必ずしも一般企業と比べて給与水準は高くない」「公定価格である診療報酬下では一般企業と同様の賃上げを保険医療機関の自助努力で行うことは難しい」という点を踏まえたプラス改定分で、賃金改善措置にのみ「+0.61%分」を充てることになります。

合計すると医療関係従事者の処遇改善分として+0.89%となっており、全体の改定率+0.88%をも上回る水準です。今回の本体のプラス改定は、政府の「賃上げ」路線に沿った内容であることがよくわかります。

ちなみにプラス改定分を、診療報酬として賃金改善につながるように適切に医療機関に配分する方法については、中医協に委ねられています。これはかなりの難問だと思われます。また賃金改善以外の改定については、プラス分はなくゼロサムになりますので、中医協では診療所・病院間や、急性期・回復期・慢性期の診療機能間などの割り振りで紛糾することが予想されます。

政府が賃金引き上げ及び物価上昇の好循環を目指している限り、診療報酬改定における点数配分による医療関係従事者の処遇改善については、常態化することが考えられます。

診療報酬は、もともと全体として医療機関の経営が成り立つように設定されてきたものです。ちなみに2年毎に実施される医業経済実態調査は、診療機能別、診療科別などの区分別に、過去の改定が医療機関の経営に与えた影響を把握し、次回の改定の参考にするための調査です。

医療機関の経営者は、公定価格である診療報酬に基づいて経営を行って収入を確保し、雇用した従業員に対する賃金、薬剤費、医療機器の経費、光熱水費等々様々な費用を支払います。医療機関の経営者は、自らの経営判断によって、賃金の水準、すなわち所得分配を決定してきました。診療報酬は全体として賃金水準の設定に影響を与えることは確かですが、これまでは個別の診療報酬が個別の従業員の賃金決定に直接対応するということはありませんでした。

しかしながら、今回の措置によって個別の診療報酬の引き上げ分が賃上げやベアの財源として直接全額充当されることになるわけで、医療機関経営者の経営の自由度を著しく奪うことにつながります。

診療報酬による「一般的に高所得者である医師」の賃上げについては、厚生労働省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」の結果を踏まえて比較検討されるのだとすれば、下表の令和4年の調査結果からわかるように、他業種の各職種の賃金が相当程度引き上げられない限り、当面は難しそうです。

特に診療所については、財務省の財政制度等審議会が昨年の11月20日に提出した予算編成等に関する建議にて、財政健全化の必要性がこれまで以上に高まっている中で、診療所経営が良好であるとのデータをもとに「診療所の診療報酬を5.5%引き下げる(マイナス改定とする)」ようにと提言しました。

5.5%の引き下げ根拠は、診療所の経常利益率(8.8%)と全産業・サービス産業平均の経常利益率(3.1~3.4%)の差になります。また診療所の利益剰余金は「看護師等の現場従事者のプラス3%の賃上げ」に必要な経費の約14年分に相当するとまで、具体的に指摘しています。

日本医師会のロビー活動によって、今回の改定において本体のマイナス改定は免れましたが、国家財政の厳しい状況は長らく続くため、診療報酬の改定は今後更に厳しくなるものと思われます。
医師が自らの賃金を増やすためには、今まで以上に経営者としての能力が問われることになるでしょう。

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