コラム

インフレに弱い医療業界 身を切る改革の必要性

2024.1.20|医療経営

コロナ禍明け以降、インフレが医療機関経営に大きな影響を及ぼしています。

全国保険医団体連合会が昨年3月に実施した調査では、電気やガス・灯油、食料費の高騰に苦しんでいる医療機関の割合は高まっており、照明の間引き・こまめな消灯、空調温度の統制など、できる限りの対策を実施しているようです。

個々の医療機関の意見をみると、「医療物品(心電図電極、注射液など薬品、ガーゼなど)の値上がりが経営に直接影響必至です。またあまり話題にされませんが、医療費の支払いに関して現金以外の電子支払いに関する手数料も医療機関には影響有ります」「診療報酬によりサービスの公定価格は決まっている。医療を提供するコストが上昇しても価格に転嫁できない。診療報酬改定までの対応が急務」等々、ほとんどの医療機関が費用の増加に対して、診療報酬の点数アップによる収入増加を期待しています。

 

しかし診療報酬をアップさせるためには、追加財源が必要になります。現政権では所得税減税や防衛費や子育て支援の財源確保が優先されるため、非常に厳しい状況です。またこれまで診療報酬の本体をプラス改定にするため、薬価を引下げることで対応してきましたが、ドラッグ・ロス問題などが生じていることから、その方法も難しくなってきました。

限られた財源の配分は、診療報酬改定の基本方針の内容が反映されます。今回の改定では、【重点課題】として「現下の雇用情勢を踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」が一番に挙げられています。

その背景の説明として、医療分野では賃上げが他の産業に追いついていない状況であること。医療分野における人材確保状況は、高齢化等による医療需要増加の一方、有効求人倍率が全職種平均の2~3倍程度の水準で高止まり、入職率から離職率を差し引いた医療分野の入職超過率は0%に落ち込んでいること。長期的にも人口構造の変化により生産年齢人口の減少に伴った支え手不足が見込まれることが挙げられています。

対応策としては、医療現場を支えている医療従事者の人材確保のための取組を進めることが急務であり、特に医師、歯科医師、薬剤師及び看護師以外の医療従事者の賃金の平均は全産業平均を下回っており、このうち看護補助者については介護職員の平均よりも下回っていることに留意した対応が必要であるとしています。

つまり、ドクター等については現状の給与水準が他産業平均と比べて高いため、その賃上げのために診療報酬での対応は難しいとしています。

 

今後、他業種との人材獲得競争が生じる職種の人件費、脱炭素化に対応するために価格アップを甘受しないといけない光熱費、円安の定着・進展による輸入品の医療材料や医療機器等の費用など、医療経営に係る支出は増加する可能性は高くなります。その増加に対応するため、これまでのやり繰りでは対応が難しく、消費税率の引き上げしか方法はないでしょう。ただ、今の政治にそれを求めるのは、なかなか難しいところです。

 

話は変わりますが、物流の2024年問題についてご存じでしょうか?

2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制等が適用され、労働時間が短くなることで輸送能力が不足し、「モノが運べなくなる」可能性があることです。医師の働き方改革と同様の問題です。

物流業界では、その対策として日本郵便とヤマト運輸が、物流をめぐる各種社会課題の解決に貢献し持続可能な物流サービスを推進していくためとして、ヤマト運輸が預かった「クロネコゆうパケット」を日本郵便が郵便受けなどに投函するという協業を行うことを発表しました。医療業界で言うところの機能分担を大胆に進めようとしています。

医療業界では各都道府県内の地域医療構想調整会議において、2017年から長い時間をかけて各医療機関の機能分担について検討が進められてきました。国が基金等を準備していますが、ほとんど進んでいません。物流業界を真似れば、まずは同一の構想区域にある独立行政法人の国立病院や労災病院、JCHO、公立・公的病院などが統合もしくは機能分担を大胆に進めるだけで、医師の働き方改革は大幅に進むでしょう。

 

医師団体はプロフェッショナル・オートノミーを唱え、医療界のことは専門家である自分たちで決めるとの考えで動いていますが、その責任を自分たちが果たしているようには見えません。医師の地域偏在・診療科偏在の問題から、地域医療構想への対応、コロナ禍で明らかになったかかりつけ医の問題などです。

前回の診療報酬改定では、リフィル処方箋の導入・活用促進による効率化によって医療費の削減を見込んでいましたが、リフィル処方箋の算定回数が処方箋料全体に占める割合は2023年3月でわずか0.05%。また電子処方箋の導入による重複投薬の発見、多剤投与の適正化による医療費抑制が期待されていましたが、医療機関や薬局の導入率は10月末で3%超にとどまっています。その他にも湿布薬の処方適正化や、スイッチOTC化の促進など、医療業界内の努力で達成が可能な医療費の抑制策は多くあるように思われます。

まずは医療業界の内部で身を切る改革を実行することで財源を生み出さなければ、ドクター等の医療職の平均賃金の上昇を期待するのは難しいのではないでしょうか。

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