コラム

医師に必要なリーダーシップを身に付ける方法【後編】

2023.11.20|医療経営

自分自身のリーダーシップ力を、メンバーへの指示や叱咤激励など目標達成をするために組織に及ぼす働きかけをする能力と、組織内の人間関係に配慮し、集団を維持するために組織に及ぼす働きかけをする能力の2軸の測定尺度で確認する「PM理論」(詳細は9月号参照)に対して、リーダーシップは部下の習熟度や状況に合わせてスタイルを変える必要があるという考え方が出てきました。代表的な「S L 理論」について説明をします。S Lは“Situational Leadership”の略で、日本語では「状況対応型リーダーシップ」と呼ばれています。

職員の習熟度や状況に合わせてリーダーシップ・スタイルを使い分けるには、職員の発達度を診断する能力、職員の発達度に応じて指示・援助する行動力が必要になります。下表のように職員の発達度によって4つのタイプに分類し、部下の発達度に合わせて以下のようにリーダーシップを使い分けるようにします。

S1:指示型リーダーシップ
経験の乏しい新入職員や、職場を異動したばかりで業務内容に対する知識が少ない段階の職員に対して、具体的な指示命令を与え、仕事の達成をきめ細かく指導します。
また職員のモチベーションが低い場合や、組織が危機的状況にあって時間的な猶予のない場合にも効果的です。
ただリーダーの負担は大きく、職員がリーダーに依存し、自主性や創造性が高まらないというようなリスクがあります。

S2:コーチ型リーダーシップ
業務に少し慣れひとりでできる範囲が増えてきた段階の職員に対して、指示を少し減らし、指導しながら職員にも考えさせます。リーダーは仕事の意義や目的を伝えるとともに、職員からの質問に対して納得がいくように答えます。職員の仕事への責任感を芽生えさせ、少しずつ率先して仕事ができるように促します。
職員一人ひとりに合った目標や課題を与えるためには、職員のことをよく知る必要があり、アドバイスやフィードバックを行うためのスキルや能力が必要となります。そのため指示型リーダーシップからコーチ型リーダーシップへの移行は、簡単なことではありません。

S3:援助型リーダーシップ
スキルも身に付き非定型業務にも対応できるようになってきた段階の職員に対して、具体的な業務への指示は行わず、重要なポイントや注意事項を伝え、職員に意思決定をさせます。自信を持ってもらうために不安なことを解消したり褒めたりします。結果がうまくいかなかった場合は、その責任を職員と分かち合います。

S4:委任型リーダーシップ
リーダーの後任として考えられるほど成長した段階の職員に対して、権限委譲を大いに行い、できるだけひとりで業務を最後まで遂行させ、成果の報告をしてもらうという関わり方をします。結果責任を職員に負わせることで、リーダーとしての自覚を持たせます。
実際の職場においては、各職員が持っているスキルの度合いやモチベーションは、それぞれ異なります。また同じ職員でも、職場経験を積むことでスキルやモチベーションは変化していきます。
リーダーは、職員の適性能力とやる気を伸ばすために、職員への観察を通じて指示型・コーチ型から援助型・委任型にリーダーシップ・スタイルを変えていく必要があります。

SL理論を実践できれば、個々の職員に合った指導ができるため、その場その場の状況で反射的な指導を続けるよりも、職員の能力を開花させやすくなります。また職員は自分の成長に応じて徐々に仕事を任されることで、達成感や責任感が高まります。組織における自分の価値を感じられるようになれば、働き甲斐が高まり定着率の向上につながります。組織としても、個々の職員が成長することで、全体のパフォーマンスが向上します。仮にリーダーに万が一のことがあったとしても、S4の段階まで成長している職員が各現場に配置されていれば、乗り切ることができるでしょう。

医師の働き方改革の推進手段のひとつにタスクシフト・シェアがありますが、SL理論に基づく地道な指導は有効だと思います。

リーダーの立場にいれば、理論など知っていなくても、おそらく自然に実践できていることが多いのではないでしょうか。ただ理論を知っていれば、うまくいかなかった際などに自分の行動を振り返り、理論と照らし合わせて自らの行動を修正することで、リーダーシップ力の向上につなげることができるでしょう。そういった点で、理論を学ぶ意味もあるように思います。

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