コラム

とことん患者に寄り添う「カスタマーサクセス」の取り組み

2021.5.20|医療経営

CSと言えば、Customer Satisfaction(カスタマー・サティスファクション)の略である顧客満足の意味で捉えられがちですが、最近はCustomer Success(カスタマーサクセス)の略でも使われています。
カスタマーサクセスは、「どうしたら顧客が望む夢を実現させてあげることができるのか?」、もしくは「どうしたら顧客の課題を解決させてあげることができるのか?」など、顧客の成功の実現という点にフォーカスしています。

自費でリハビリテーション治療を行っている株式会社ワイズはご存知でしょうか?
脳血管疾患の後遺症は、半身麻痺、拘縮、痙縮と言われる運動機能障害が多くを占め、脳の損傷部位により高次脳機能障害と言われる重い障害が残るケースがあります。しかし医療機関が実施している保険診療の範囲内のリハビリは、ADL(日常生活動作)がある程度回復し、退院し日常生活に戻れば役目は終わります。
患者本人に、少しでも家族に余計な負担をかけたくない、職場復帰をしたい、また旅行にいけるようになりたい、というような目標があったとしても、更なる専門的なリハビリを提供するようなサービスはありませんでした。ワイズは、そのニーズ(各々の顧客にとっての成功)に応えるべく、リハビリセンターを全国13ヶ所まで展開しており、医療機関からの紹介も多いようです。

顧客の成功体験の実現という目的を達成するためには、時には顧客の要望をそのまま受けることが正しくない場合も出てきます。
歯の予防医療で有名な山形県酒田市にある日吉歯科診療所は、全ての人に健康なお口で人生を過ごしてもらうことがカスタマーサクセスとの信念で、永年歯科医療に取り組んでいます。地域住民のほとんどが、虫歯などの処置が歯科医療であると思い込んでいる状況下で、歯科医療はお口の健康を維持させること、更にその先にある身体の健康につなげること、更に更に先にある生活の質を向上するという目標を持って40年以上取り組んでいます。
対処療法的な虫歯の治療をするだけでは、歯周病が進行してしまい、将来不都合が生じる患者も一定程度出てきます。しかし歯医者にはできるだけ行きたくないと考える人がほとんどですので、歯科医は予防目的等の必要以上の来院を求めないのではないでしょうか。
カスタマーサクセスを達成するためには、虫歯の痛みをなくすという課題を一時的に解決するだけでは不充分であり、お口の中を健康に保つことで生活の質を向上させるという長期的な目標を地域住民(患者)と歯科医や歯科衛生士などが一緒に協力し合って目指す必要があります。

日吉歯科診療所が取り組んでいるメディカルトリートメントモデルは、初期のリスク評価から、個々の患者さんに合わせた予防プログラムの立案、最小侵襲治療などを行い、定期的なメインテナンスに至るまでの流れです。
日吉歯科診療所の永年の取り組みのアウトカムについて、Websiteに公表されていますので一部を転載します。5歳以前より定期的に来院し健康ノートを持つグループの20歳では、約90%がカリエスフリー(虫歯ゼロ)を維持しています。一方で歯科疾患実態調査によると、全国平均では7.7%と、その差は歴然です。また成人の18年間の平均喪失歯数は、同院の初診時に年齢が20~34歳だったグループは0.3本。45~54歳だったグループの平均喪失歯数は1.3本です。全国平均では、約1.76本、約6.12本ですので、同様に明らかな差があります。

カスタマーサクセスを実現すれば、顧客からの信頼が厚くなり、顧客の成功に寄与するアップセルやクロスセルを実施することで、顧客単価の引き上げにもつながります。アップセルとは「価格は高いが質が良いものを顧客に購入してもらうこと」で、クロスセルとは「顧客に関連する他のサービスなども併せて購入してもらうこと」を意味しています。
例えば一部の歯科診療所においては、お口の中を健康に保つという目標を実現するために、拡大鏡や位相差顕微鏡を導入した緻密な検査、プラーク(細菌の集合体)の除去、患者の虫歯リスクに合わせた高濃度のフッ素塗布やフッ素洗口剤の指導等のセルフケア指導等々、アップセルやクロスセルを実施しています。

公的な医療保険、介護保険の収支は年々悪化し、将来的に保険の給付範囲や基準がより厳しくなる可能性があることは容易に想像できます。保険外サービスの拡大を検討されている医療機関経営者の方々にとって、カスタマーサクセスの取り組みは参考にできるように思います。

 

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