コラム

過労死ラインを目標におく 「医師の働き方改革」

2021.5.20|ライフプラン

皆さん、こんにちは。ジーネット㈱代表取締役社長の小野勝広です。今回は「医師の働き方改革」について考えてみます。
まず、2020年12月に厚生労働省の社会保障審議会医療部会より出された「医師の働き方改革の推進に関する検討会 中間とりまとめ」という資料を読みました。関係者の方々には誠に申し訳ないのですが、率直に申し上げて、当初の目的、つまり医師の労働時間の上限規制に関しては「無理だな」と感じました。
既に時間外・休日労働の上限を1,860時間とする水準、いわゆるB水準が出され、Twitterなどでは落胆の声が溢れていましたね。これは月間155時間となり、一般的に過労死水準と言われる80時間の2倍近い労働時間となります。
原則的にはA水準とされる960時間という上限を定め、これを超えざるを得ない場合にはB水準が適応されるという設計となっていますが、この960時間ですら月間80時間と既に過労死ラインなわけです。
この段階で私の期待感は喪失しました。目指すべき水準が過労死ラインで良いのでしょうか?
勤務医の一定数は主たる勤務先での労働時間は960時間以内ですが、副業・兼業先での労働時間を通算すると960時間を超えていると分析しています。
医師の働き方を本当に知っていれば、研修医時代から続く、どこまでが仕事で、どこからは自己研鑽か、という命題に突き当たります。正直、まだ労働とそれ以外を明確に分離できるという発想、ここは議論の大前提でありますが、私はこの前提から時代の変化についていけていないと感じます。
いや、別に検討会を批判、非難したいのではありません。メンバーには官僚、医師会、大学教授(経済学部、医学部、法学部)、医療機関経営者、労働組合代表など、そうそうたるメンバーが参加されていますし、私などが口を挟む余地などないと思っています。
ただ、このままでは総論賛成各論反対、あまりにも多くのステークホルダーの意見を組み入れ過ぎて、出来上がったものは玉虫色の見栄えの良い施策。しかし現場で奮闘する医師たちには一向に心に響かない、いやむしろ対策を取るのにまた事務作業や確認事項が膨大に増えて、当初の目的には程遠いものが出来上がってしまうのではないかと心配になります。
あまりにも多くの要件があり、複雑極まりない、まるで蟻地獄のような状況に陥っているように思われ、このままでは医師の働き方改革も掛け声は良かったのに、実態は現場では通用しない、適用しにくいものとなってしまいそうです。

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