増患・集患
新型コロナウィルス禍による患者減少対策について教えてください。
不安を抱えている患者に対して、医療機関サイドから積極的に発信をし安心を与えることは、かかりつけ医として大切なことだと思います。 患者がどのような理由で受診を控えているかを確認し、当院の対処内容を伝えましょう。
多くの国民が新型コロナウィルスを警戒して手洗いやマスクの徹底をしたことで、インフルエンザなどの感染症患者が減少したり、外出自粛によって外傷患者が減少したりするなどの要因は考えられますが、TVの報道の影響で医療機関に行くこと自体にリスクがあると感じて、定期的な受診を控えている慢性期の患者もいます。病状が悪化してしまうリスクが高まるため、放置するのではなく、以下のような必要な感染症対策を講じた上で積極的にフォローしましょう。
1.自院の状況についての発信
患者としては、自らのかかりつけ医療機関が感染予防のために密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、密集場所(多くの人が密集している)、密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)という感染を拡大させるリスクが高まる3つの条件に対してどのような対策を講じているのか、消毒などの衛生管理をどのようにしているのかを知りたいところです。
例えば、医療機関よりも影響度合いの大きい飲食業を倣って、「当院では、入口に消毒液を配置し、患者様に手指の消毒のお願いを徹底しております。」「午前と午後の診療開始前に、待合室の椅子や受付のカウンターなどを、職員が消毒しております。」「待ち時間に普段ご覧いただいている広報誌や冊子など、複数の方が触られるものは当面は待合室から除いています。」など患者が不安に感じそうな内容をホームページで発信することで、感染予防への取組を知らせることができます。また薬の処方等で定期的に通院しないといけない患者には、医療機関から電話やはがき等で積極的に知らせることも考えられます。
2.できる範囲での具体的な対策の実施
3つの「密」については、定期的な換気や空気清浄機の設置による密閉空間への対策は比較的簡単ですが、密集、密接の予防は難しいところです。密集、密接にしないためには、医療機関内の待ち人数を少なくする必要があります。その方法を整理しました。
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■待合室を密集、密接にしないための工夫例
<来院患者数の制御>
☑ 慢性期患者の一時的な長期処方への移行
☑ 一部の慢性期患者のオンライン診療への移行
☑ 通院できない患者からの要請による往診
☑ 予約診療(システム)の導入
☑ 待ち患者数の見える化(ホームページに掲載)
☑ 慢性期と急性期、感染症と非感染症の患者の診療時間帯の分離
☑ かかりつけの高齢者の患者のための診療時間帯の設置(午前の早い時間等)
<療機関内での運用改善>
☑ 院外での待機&診療予約システムによる院内への自動案内
☑ 看護師・医療クラークによる問診、自動問診システムによる診療前の電子カルテへの患者情報の反映
☑ 医療費後払いの導入による会計待ち患者の削減
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大きく分けますと、来院する患者数をいかに少なくするか、来院の時間帯をいかにして分散させるかという来院患者数を制御する考え方と、医療機関内の患者滞在時間をいかに短くするかという医療機関内での運用改善の考え方があります。
(1)来院患者数の制御
来院する患者数を少なくするのは経営の観点からは厳しい選択ですが、かかりつけの患者に安心を与えるための非常時の対応として、慢性期患者の一時的な長期処方への移行や、一部の慢性期患者をオンライン診療に移行するなど考えられます。また超高齢化社会への対応の観点から、通院が困難なかかりつけの患者からの要請に対応するために往診を開始することも検討の余地があるかもしれません。
患者の来院時間帯の分散については、予約診療による方法が歯科診療所では一般的ですが、医科の診療所ではまだまだ少ないように感じます。疾病の種類が多く患者ひとりひとりの診療時間を事前に読めないため難しいところです。ただほとんどの患者がスマートフォンなどを保有していて、常時インターネットに繋がる環境の場合は、診療予約システムを導入することで改善をはかれます。「待ち時間」と「院内待ち時間」を分離し、「院内待ち時間」を短くすることができれば、「実際は混んでいても、院内待ち時間は短い」という理想的な状態をつくれます。院外(駐車場、風除けやベンチの設置、近くで他の用事を済ませる等)にて待機してもらい、診察前に予約システムによって院内に入ってもらうように自動案内をすることで、院内の患者数を制御できます。
そのほかに自院のホームページに診察前の待ち患者数を遂次掲示したり、曜日時間帯別の混雑具合の統計グラフを知らせたりすることで、患者自身に判断材料を提供する方法もあります。また新型コロナウィルス対策として、一部のスーパーが高齢者や障害者を対象にした専用の買い物時間を設定していましたが、医療機関の場合は慢性期と急性期、感染症と非感染症の患者の診療時間帯を分離したり、かかりつけの高齢者の患者のための診療時間帯を設置(午前の早い時間等)したりすることも考えられます。
(2)医療機関内での運用改善
次に検討すべきは、医療機関内の患者の滞在時間を短くするための運用の改善です。
待ち時間で最も長くなるのは、受付後から診察開始までの時間です。医師の診察時間がどうしてもネックになりますが、医師の診察時間を短くするために、結果的に粗診粗療になりますと患者の満足度が下がります。そうならないようにタスクシフトを導入します。医師の診察前に、看護師・医療クラークによる問診やAIを活用した自動問診システムによって、医師の時間を使わずに患者の情報を収集します。医師は電子カルテに反映された患者情報に基づいて的確に追加の問診や検査等を行えば、医療の質を下げることなく時間の短縮をはかることは可能です。ただ看護師や医療クラークの教育や、問診結果の記載方法の標準化・効率化などの準備や機器の導入費用が必要なため、短期的に実施するのは難しいでしょう。
院外処方が進んだため院内でのお薬待ちはほとんどなくなりましたが、会計待ちは課題として残っています。最近では外来患者数が千人超の大病院中心ですが、医療費を後払いする仕組みを導入することで会計待ち患者を大幅に削減している医療機関も出てきています。
新型コロナウィルスの影響が完全になくなったとしても、待合室の密集、密接は、患者にとって決して好ましい環境ではありません。この機会にできることから検討されてはいかがでしょうか。