医事・会計
ベテランの医事課長の退職に伴う懸念事項について悩んでいます。
若手の人材が育っていない段階でのベテラン医事課長の退職に対して 業務フロー・マニュアルを作成と外部専門事業者の活用で乗り切る
ベテランスタッフのやむを得ない退職は、組織全体として大きな不安やリスクを抱えることとなります。しかしながら、別の視点から申せば、それだけベテランスタッフに頼っていたこととなりますので、これを機会に組織運営やスタッフ教育を見直す良いきっかけであると捉えてください。
正確性の向上と時間外勤務の抑制が課題とのことですが、これまでの質を維持しようとしていくにはスタッフの教育や業務プロセスの改善が伴うため、短期的に達成できることではないことを、ご理解・念頭に置いていただく必要があります。
なお、「チェックシステムの導入によるダメージの最小限化」とありますが、リスクの軽減に向けてシステムを活用することは必要不可欠ですが、あくまでも業務目的を達成するための補助ツールとして活用することが要諦です。では、課題の解消に向けたアクション例を紹介します。
○アクション1 指示命令系統について
ご質問に「当該課長に替わる人材が育っておらず」とありますが、現在の医事課長が退職された後の指示命令を残った職員に分散させると組織運営上のデメリットが生じます。ついては、継続して業務に当たられる職員を当面(課長への昇格はなくとも)リーダー格として処遇し、新任のリーダーへ指示・命令系統の一本化を図ることが要諦です。
○アクション2 業務引き継ぎを機会とした業務マニュアルの作成
医事課長が退職されるまでの間は、ご自身がされていた業務を残るスタッフに対して引き継ぎしなければなりませんが、口頭のみで引き継ぐことは大きなリスクが生じます。時間的な制約があるでしょうが、業務フローやマニュアルを作成したうえで引き継ぎされることが要諦です。これにより、フローやマニュアルを参照しながら的確に引き継ぎできることが期待できます。
業務そのものを、①日常業務(医事システムの操作を含む)、②週次業務、③月次業務、④年次業務、⑤対行政業務、⑥その他業務――に分類したうえで、業務項目単位でフローやマニュアルを作成してください。これを用いると新人スタッフが業務を行っても業務の質が最低限担保されることになります。
○アクション3 専門事業者の検証とスタッフ教育
残されたスタッフによる業務の質がどうか評価するに当たっては、外部の専門事業者へ検証を依頼することが客観的に評価するためにも妥当です。専門事業者へ依頼する際、業務範囲をどうするかが課題となりますが、例を挙げると以下の通りとなります。
(1)レセプト点検とは異なる観点で診療録の記載内容と(診療結果としての)レセプトを照合させることで、日常におけるプロセスとアウトカムのつながりを検証する。このようにすることで「請求漏れ」があるかどうかを評価することができます。
(2)通常のレセプト点検はスタッフで行い、その流れのなかで専門事業者がレセプト記載内容を検証する(いわゆる二次点検のスタンスとして活用する)。
(3)これらの検証業務結果を踏まえ、専門事業者からスタッフに対して継続的に教育を実施してもらうことも必要です。そうすることで、スタッフのスキルや業務の質がどれだけ向上しているか、経時的な評価が可能となります。
なお、上記(1)から(3)に基づき院内で様々な業務改善を実行することで、業務の質を向上させていくことが可能となります。専門事業者による検証とスタッフ教育には費用がかかりますが自院とスタッフの質を外部から検証・評価してもらうというポジティブな視点で捉えることが肝要です。
○アクション4 査定減・返戻内容の精査と反映
査定減や返戻は、毎月の診療結果について各審査機関や保険者が評価したものといえます。ついては、査定減や返戻の通知書に記載されている「減点事由」等をデータ化・分類することで、自院が補強するポイントが明らかになります。具体的には、傷病名の記載不備、診療上の課題、法令通知を踏まえた運用の課題、保険証や公費受給者証の確認業務の精度等です。査定減や返戻結果は、院内全体で共有し、改善に向けて検討することが大切です。
○アクション5 日常業務・月次業務への医師の参加
傷病名の記載不備による減点は、医師も大きく関与していると捉えるのが妥当です。特に、傷病名の記載不備に端を発する調剤報酬の減額(院外処方にかかる突合点検結果による査定減)は薬剤費だけでなく、場合によっては調剤基本料をはじめとした調剤にかかる手技料や処方箋料そのものまで減額になり、医業収益が適正に確保できないことにつながります。ついては、傷病名の記載不備が起こらないよう、医師と医事課スタッフ相互のチェックが不可欠です。
このようなアクションを段階的に実施することで、業務の質(正確性)が担保され、時間外勤務の抑制に寄与すると思われます。