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医療分野におけるICT化の将来像について

先日、近隣の療養病院が地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、訪問看護ステーション、有料老人ホーム、診療所、病院などの連携担当者50名余りを集め「同病院の自己紹介をする会」を開催しました。80年以上の歴史のある病院で日曜日も診察をしていることを初めて知りました。患者のさまざまな情報をICT化により薬局を含め、今回の参加者間で一元化することにより質の高い地域医療が実現できるのではと思います。今後の医療分野におけるICT化の将来像について教えて頂きたいと思います。 (診療所院長50歳)

医療・介護サービスの効率化、医療従事者の補完、サービスの質向上のため 地域全体での「医療のICT化」は不可欠だが、デメリットにも注意すべき

過去数回の診療報酬改定を通して「医療のICT化」が推進されてきています。また、国においても次世代ヘルスケアシステムの構築に向けてICTやAIを積極的に推進することで一致しています。ついては、「医療のICT化」による将来像について、そのメリット・デメリットを考えなければなりません。

◎メリット
1.医療・介護サービスの効率化と医療従事者の負担軽減
少子高齢化社会は維持期にかかる患者数が増加しますが、医療従事者数はどのように変化するのかを確認します。厚生労働省の試算によると、2018年における就業者数は約6580万人の約12.5%に相当する823万人が医療・福祉に従事しているとされていますが、2040年には就業者数は5650万人と減少が見込まれる一方で、医療・福祉の従事者数は約1060万人が必要になると推定されています。そのため、国全体として現役世代は明らかに減少する半面、医療・介護の担い手の数を増やさなければならないとの認識ですが、従事者数が現状維持であっても負担は増加することとなります。
経済財政諮問会議での報告によれば、

a 労働力の制約が強まるなかでの医療・介護サービスの確保が必要であるため、2040年時点において必要とされるサービスが適切に確保される水準の医療・介護サービスの生産性の向上を目指す。

b ただし、ICT、AI、ロボットの活用で業務代替が可能と考えられるものが5%程度と試算するが、介護分野、特に介護老人福祉施設の一部には、ICT等の活用により2.7人に対し1人程度の配置で運営を行っている施設もある。

とされており、必要な労働力を確保するうえで、ICT・AI・ロボットは重要な役割を果たすことが期待されています。また、厚生労働省が実施した「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」によれば、医師の業務のうち、1日当たり47分は他職種への移管やICT等の活用により効率化が可能と示され、医療のICT化はスタッフの負担軽減を図るために大きな役割を果たすことが期待されています。

2.医療情報の共有化
今春の診療報酬改定では、退院時共同指導料(1・2)や、リハビリテーション計画提供料等において、施設間の多職種連携に際してICTの活用が実質的に解禁されました。

3.診断の補助ツール
今春の診療報酬改定でオンライン診療料や情報通信機器(ICT)を用いた死亡診断が新設されました。これまでも遠隔画像診断等が推進されてきていることを踏まえると、診療・診断の質の維持・向上のために、一定条件下でのICTの活用が不可欠となります。したがって、このようなメリットを活かすためにも、
 ⅰ提供するサービスの質の維持・向上
 ⅱ医療従事者の負担軽減
 ⅲ地域単位での情報連携と共有
に向けてICT技術を活用することが必要不可欠になり今後の医療経営の大きな柱の一つになります。

◎デメリット
1.「没コミュニケーション」に陥るリスク
ご質問にある「病院の自己紹介をする会」は、今後を見据えて円滑にコミュニケーションを図るための一環であると捉えるのが妥当です。なぜなら、情報のデジタル化が促進されると、コミュニケーションが希薄になる恐れが生じるからです。
医療・介護はあくまでも「人と人」の会話が基本になります。デジタル化された情報は「見えない・無機質」な情報ですから、画面等で確認した情報で疑問が生じた点や確認したい点があれば、コミュニケーションを通して解消することが最善です。
コミュニケーションに当たっては「相手の顔を知っている」ことが必要不可欠となりますから、デジタル化・ICT化が進むほど、院内・院外を問わずコミュニケーションを重視することが要諦です。

2.地域全体で推進しにくい
情報のデジタル化・ICT化は多大な経費が必要とされ、自院の経営環境がよくないと推進できません。また、他院等を交えた地域全体で推進が図られなければ、トータル的に成就しません。このような点は、前述した経済財政諮問会議の報告においても「処方箋・服薬指導まで、すべて一貫してオンラインで完結しないと患者・その家族の利便性の点で不十分」と示されています。地域全体で歩調をあわせて推進しなければ、効果を発揮できない恐れがあります。

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