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医事・会計

厳しくなったレセプト点検への対応について【前編】

レセプト突合・縦覧点検で減点されるケースが増えています。これまで査定や請求漏れの対策は医事課の仕事と思ってきましたが、早急に現場の医師やコ・メディカルにも算定ルール等を理解してもらいつつ、査定されないレセプトを作っていくための院内体制を構築していこうと思います。具体的なアドバイスをお願いします。(中小病院院長)

来年度の診療報酬改定に備えて早目に情報を収集し、地域の審査傾向をふまえて院内全体でのチェック体制構築を。

■突合点検・縦覧点検などの審査強化への対応
審査は「診療報酬点数表」と「日本医薬品集」に基づいて行われます。査定や減点の対象になるのは、基本的にはその決め事から外れた場合です。審査委員や審査委員会によって傾向の違いはありますが、基本的には医学上の常識に則って請求をしているならば、仮に査定されてもしっかりとした説明をし、必要に応じて検査結果などの根拠データをレセプト添付すれば、認められる可能性は高まります。
ただ、支払基金の事情のために以前よりは審査が厳しくなっている可能性がありますので、医療機関の現場の先生方やコ・メディカルの皆様に再確認していただくため、留意すべき点について説明いたします。

(1)全体での情報共有とPDCAサイクルの継続
コンピュータによるチェックは、人がチェックするよりも規則性があります。医事課の責任者(担当者)を決めて増減点連絡書や各種通知書等を確実に点検し、不備があったレセプトについて、その要因を医事課が中心になって医師の協力のもとで分析し、院内全体で共有すれば徐々に単純な要因による査定・返戻は削減できます。
審査員によるチェックが入るレセプトの場合は、症状詳記がしっかり記載されていないと査定される可能性が高いです。高額レセプト(80,000点以上)の場合や内容が複雑なレセプトの場合などは、診療区分ごとに各職種が参加し、チームで点検する体制を作ることが大切になってきます。
たとえば、投薬や注射は薬剤師が、検査は臨床検査技師が、画像診断は放射線技師がそれぞれ点検することによって、診療の根拠や妥当性・詳記作成のポイント提示が可能になります。
二年に一度の診療報酬改定は、一般企業にたとえれば価格やメニューの改定に当たります。期限通り、つまり4月からすぐに対応できるように、改定時には診療行為別(基本診療料、医学管理料、検査料、投薬料等)の分担を決めて、最新の情報を早いうちから収集する必要があります。医師会はもちろんのこと、看護協会、薬剤師会等々、各職能団体で情報を発信していますので、院内に該当する職種がいる場合は、情報収集を依頼します。施設基準をクリアするためには、特定の資格保有者の配置や研修義務などが要件になるなど、時間を要する場合がありますので早めの準備が肝要です。
(2)医師による今日的医学水準に基づいた根拠のある診療の実施
縦覧点検では、月を超えて医学上の常識から考えて根拠のない診療をしていないかどうか、治療の一貫性や整合性があるかが問われます。手作業による単月調査の場合は、検査や高額な薬剤など、月をまたいだり外来と入院とで重複したりしても審査を免れていましたが、現在はそうはいきません。
根拠のある診療という点で、もっとも大切なのは病名付けです。同じ疑い病名が何ヵ月も続いたり、病名が極端に多かったり、保険病名であり得ない病名が並んでいたり、審査する側に目をつけられるような病名付けは、当然に気を付けなければなりません。
治療の一貫性や整合性という点では、症例数の多い疾患や診療費が高額になる疾患などは、クリティカルパスを作っておくことをお奨めします。事務の職員の経験や業務技能に左右されず、正しい請求ができます。最初は大変かもしれませんが、請求漏れ防止や診療コスト管理の観点からも、積極的な活用は経営にプラスに働きます。
クリティカルパスは自院で作るほうが職種間の横の連携が促進されるので望ましいのですが、まずは他の医療機関で使用されているパスを参考にされるのがよいでしょう。特定非営利活動法人日本医療マネジメント学会と一般財団法人医療情報システム開発センターが、合同でクリティカルパス・ライブラリーをインターネット上で開設していますので参考にして下さい(https://epath.sakura.ne.jp/)。
(3)事務によるミスのないレセプトの請求とコンピュータの活用
病名漏れ、記載漏れなど、形式的に漏れのないレセプトを作成するのは事務の責任です。そのためにはレセプトの提出前に複数の担当者による院内点検が必要になります。コンピュータチェック、画面点検のほか、紙に打ち出しての点検も効果的です。特に、単純ミスの返戻は診療報酬の支払いが少なくとも1ヵ月遅れとなります。結果的に、医療機関の運転資金が不足して無用の借金をして利息を支払わなくてはならなくなる可能性があることを事務の方は十分認識しておくべきでしょう。
たとえば、診療所の場合は病院と比較して医事の機能が強くないため、レセプト点検ソフトまで入れておらず、処方箋内容とレセプトの病名をチェックしていないケースが多いかもしれませんが、突合点検、縦覧点検に対応するためには、レセプト点検ソフトの活用は有効です。ただ、点検ソフトは保守的な設定になっており、チェックがかかりすぎるため、カスタマイズが必要になります。また、審査は都道府県ごとに査定の傾向が異なるので、併せてカスタマイズしておく必要があります。
古いレセプトコンピュータのなかには過去のレセプトのデータを上書きしてしまうものもあるため、縦覧チェックができない場合があります。紙での点検は大変なため、システムの更新を検討されることをお奨めします。
(4)院外処方中心の医療機関の場合の調剤薬局との連携
調剤薬局からの疑義照会を積極的に受けたり、査定を受けた状況を情報交換したりすることで、請求の精度が高まります。
調剤技術料には、一包化、分割調剤、嚥下困難者用製剤加算、自家製剤加算、計量混合調剤加算、後発医薬品調剤加算、重複投与・相互作用防止加算等々、処方医に連絡確認すべき事項が数多くあります。
医薬分業は、医師と薬剤師の信頼関係で成り立っています。突合点検を機に、主要な調剤薬局と常に情報交換ができる体制を構築しておくことは、双方にとってプラスに働くでしょう。(以下次号)

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